H7公差の内径穴加工は、精密な寸法と仕上げ品質が求められるため、切削速度と送り速度の適切な設定が不可欠です。以下では、具体的な設定方法とその理由について詳しく解説します。
1.H7公差の内径穴荒加工
ドリルによる下穴加工
ドリルによる下穴加工の使い分け
- 貫通穴の場合: 仕上げ径より直径で0.2mm小さいドリルを使用します。
- 止まり穴で底面が平らな場合:
- ドリルを底面の深さまで挿入し、底面を平らに加工します。
- ドリルの届かない部分はエンドミルによるヘリカル切削で除去します。この際、仕上げ深さより0.2mmほど深く荒取りします。
- 止まり穴で底面が平らでない場合: 貫通穴と同様に、仕上げ径より直径で0.2mm小さいドリルを使用します。
穴の種類 | 底面の形状 | ドリル径 | 補足 |
---|---|---|---|
貫通穴 | – | 仕上げ径 – 0.2mm | |
止まり穴 | 平ら | 仕上げ径 – 0.2mm 底面までの深さ | ドリルが届かない部分はエンドミルで加工 |
止まり穴 | 平ら以外 | 仕上げ径 – 0.2mm |
素材別!エンドミル荒加工のポイント
アルミの場合
ポイント
- 基本的に複数回の切り込みで荒加工を行っても問題ありません。
- ただし、工具寿命を延ばし、より美しい仕上がりを目指すなら、一回で切り込むのが理想です。
メリット
- 工具への負担が少ない
デメリット
- 工具先端の摩耗が進む場合がある
SUS304やS45Cなどの場合
ポイント
- 工具摩耗を抑え、テーパー状の穴になるのを防ぐため、できるだけ一回で荒加工を行いましょう。
- 複数回の切り込みは、エンドミルの先端ばかりが摩耗し、穴の下部が狭くなって公差内に収まらなくなるリスクがあります。
メリット
- 工具摩耗を抑え、美しい仕上がりになる
デメリット
- 切り屑が絡まりやすい場合がある
小径穴加工の場合
ポイント
- 3φの工具で4φの穴を仕上げる場合、取り代は片側0.05mm程度を目安にしましょう。
- 深い穴の場合は、切粉が長くなり工具と穴の隙間が狭くなるため、切り屑詰まりを防ぐためにも、こまめな切粉の排出を心がけましょう。
荒加工の取り代の目安
ポイント
- 片側0.02mm程度の仕上げしろを残して荒加工を行うと、仕上げ加工時のエンドミルの負担を軽減できます。
- その結果、工具交換の回数も減り、効率的かつコスパ良く加工することができます。
エンドミル荒加工の素材別ポイント早見表
素材 | 切削方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
アルミ | 複数回切り込み可 (一回推奨) | 工具への負担が少ない | 工具先端の摩耗が進む場合がある |
SUS304 | 一回切り込み | 工具摩耗を抑え、美しい仕上がりになる | 切り屑が絡まりやすい場合がある |
小ロットで穴数が少ない場合は、エンドミル一本で仕上げ加工まで行うことも可能です。
今回の内容を参考に、素材に最適な荒加工を行うことで、高精度なH7公差の内径穴加工を効率良く実現していきましょう。
2.エンドミル仕上げ加工
切削速度の設定
エンドミルを使用した通常仕上げとH7仕上げ加工において、切削速度は非常に重要です。以下のポイントを考慮して設定します。
- メーカー推奨の切削速度: エンドミルのメーカーが推奨する側面切削速度を基に設定します。特に、直線や大きなRを仕上げる場合には、これを参考にします。
- 公差の狭い加工: H7などの公差が狭い場合、切削速度と送り速度を共に70%程度に下げることが推奨されます。これにより、仕上げ品質を向上させることができます。
- 直線や大きなRの仕上げ: 10φのエンドミルで100Rを加工する場合など、工具径に対して大きなRを加工する場合は、状況に応じて上記を参考にします。
送り速度の設定
送り速度は、工具がワークピースに対して前進する速度を指します。以下の方法で最適化します。
H7公差の内径穴仕上げ加工の条件例
加工径 | エンドミル径 | 回転数 | 送り速度 | 補足 |
---|---|---|---|---|
6φ | 4φ | 溝切削推奨値の70-80% | F60 | 同じ場所を2周 |
4φ | 3φ | 溝切削推奨値の70-80% | F45 | 同じ場所を2周 |
8φ | 4φ | 溝切削推奨値の70-80% | F100 | 同じ場所を2周 |
- 送り速度の調整: 公差が狭い場合、送り速度を大幅に下げることが必要です。特に、内径穴の仕上げでは、送り速度を大きく減少させることで、仕上げ面の品質を向上させることができます。
- 具体的な設定例:
- 6φのH7仕上げを4φのエンドミルで行う場合:
- 回転数: 溝切削の推奨値の70%~80%
- 送り速度: F60で、同じ場所を2周回す
- 4φのH7を3φのエンドミルで仕上げる場合:
- 回転数: 溝切削の推奨値の70%~80%
- 送り速度: F45で、同じ場所を2周回す
- 8φのH7仕上げを4φのエンドミルで行う場合:
- 回転数: 溝切削の推奨値の70%~80%
- 送り速度: F100で、同じ場所を2周回す
- 直線や大きなRの仕上げ: メーカー推奨の側面切削速度を参考に、送り速度は70%~80%に設定します。そして、通常の仕上げ速度で2回同じ場所を走らせます。
その他のポイント
仕上げ加工時のポイント
項目 | 内容 |
---|---|
工具選定 | 高剛性エンドミル(超硬工具や不等ピッチ工具) |
冷却 | 水溶性切削油剤 |
その他 | CNCプログラムによるリアルタイム調整 |
- 工具の選定: 高剛性のエンドミルを選ぶことで、振動を抑え、加工精度を向上させることができます。特に、超硬工具や不等ピッチの工具は、ビビりを抑える効果があります。
- 冷却剤の使用: 加工中の熱を抑えるために冷却剤を使用することで、工具の寿命を延ばし、仕上げ品質を保つことができます。
- リアルタイムでの調整: CNCプログラムを使用して、加工中に切削条件をリアルタイムで調整することが可能です。これにより、加工状況に応じた最適な条件を維持できます。
まとめ
H7公差の内径穴加工においては、切削速度と送り速度の適切な設定が、仕上げ品質を左右します。特に、切削速度をメーカー推奨の70%~80%に設定し、送り速度を適切に調整することで、精度の高い仕上げが実現できます。 荒加工では、材料や穴形状に応じた適切な加工方法を選択することが重要です。これにより、H7などの高精度な内径穴加工も完璧に仕上げることが可能となります。